モンテネグロ副首相は語る
 ユーゴスラヴィア連邦はセルビア共和国とモンテネグロ[原語 Crna Gora]共和国から成る。モンテネグロ政府は共和国大統領であるジュカノヴィチ Milo Đukanovićの下、連邦大統領であるミロシェヴィチの路線とは距離を置いた政策を維持している。そのため国内では、ミロシェヴィチ派の野党による現政権打倒の動きが取り沙汰されている。
 また、ミロシェヴィチ体制を批判したために逮捕されそうになった新聞記者や芸術家、コソヴォ・アルバニア人との対話を進める活動に関わったため身の危険にさらされた学生や運動家がセルビアから「亡命」し、モンテネグロ警察の保護を受けている。
 モンテネグロのキリバルダ Novak Kilibarda副首相(63)は、社会主義民主党[ジュカノヴィチ大統領の所属政党]及び社会民主党と連立政権会派「より良い暮らしのために」を組む人民党の党首。ニクシチNiksic大学のセルビア語文学の教授でもある。

 ユーゴスラヴィア軍は、あなたが兵役拒否を呼びかけたかどで、逮捕命令を出していますね。どんなお気持ちですか?
 職場では安全だと思います。普通に自由に動き回っています。カフェやレストランにもよく出かけます。身の安全のため警察当局の指示に従わなければならず、制限はありますが。軍は、私がコソヴォでの戦役を拒否するようモンテネグロ市民に呼びかけたことで、私を追っています。しかし、コソヴォがセルビアの内政問題だということは、他でもないミロシェヴィチ自身が言っているではありませんか。何のために我々モンテネグロ国民が戦争へ行かねばならないのでしょう?
 警察はあなたを保護し、軍はあなたを追っている。警察はモンテネグロのジュカノヴィチ大統領に従い、軍は最高司令官であるユーゴスラヴィアのミロシェヴィチ大統領に従っている。しかもミロシェヴィチは、モンテネグロを戦争から引き留めておこうとするジュカノヴィチを裏切り者と見做している。ユーゴスラヴィア軍がモンテネグロで権力を掌握する危険性はないのでしょうか?
 ミロシェヴィチはモンテネグロ政府の息の根を止めようとしていますが、そのモンテネグロは副首相である私への逮捕命令を却下しました。ミロシェヴィチはモンテネグロ政府を混乱に陥れようとし、またバルBar港を軍事力で封鎖しています。彼は自らの独裁に対する民主的対案に抵抗し、そのためにモンテネグロの自由な報道に携わる人達が軍の脅迫を受けているのです。もし彼がモンテネグロ内で自らの政治的支持の強まりを確信したら、その時彼はクーデタを起こすでしょう。
 ミロシェヴィチは、モンテネグロの論調がセルビアへ波及することを怖れているのです。何しろ、自分が西側を訪問するなど想像もできない一方で、ジュカノヴィチはシラク大統領やシュレーダー首相やクリントン大統領に歓迎されているのですから。形式上セルビアの領土でも、コソヴォへの権力が失われていることは、ミロシェヴィチにも分かっているのです。彼の支持者はそのことに失望しています。だから彼は、モンテネグロを取り込むことでユーゴスラヴィアの結束を示そうとしているのです。

 モンテネグロに対するNATOの爆撃で得をしたのは、政府でしょうか?それともブラトヴィチ Momir Bulatović率いる野党でしょうか[ブラトヴィチはユーゴスラヴィア連邦首相。モンテネグロでは野党・社会主義人民党の党首]?
 ブラトヴィチの人気は、要するにモンテネグロにおけるミロシェヴィチの人気なのです。ミロシェヴィチがいなければブラトヴィチもあり得ません。彼は大きな支持基盤を持ってはいますが、その力は一層弱まっています。
 戦争が終われば、セルビアは再建に取り掛からねばなりません。待っているのはハイパーインフレです。コソヴォの戦闘から距離を置いているモンテネグロは、今後もセルビアとの結び付きを保っていくのでしょうか?
 セルビアから離れないにしても、モンテネグロは独自の通貨で、セルビアの政策の破綻から国を守ろうとするでしょう。
 すると、セルビアとモンテネグロはこれまで通りの連邦に留まるのでしょうか?
 コソヴォは新しい地位を獲得し、モンテネグロもその地位を定義し直すことになるでしょう。連邦(federation)の概念は破棄し、国家連合(confederation)へ移行すべきです。セルビアはモンテネグロの13倍も大きな国で、同等な地位で連邦を組むことは困難です。モンテネグロ市民の大多数は、セルビアとの関係をすべて解消したいとは思っていません。国家連合こそ最良の解決策なのです。ユーゴスラヴィア軍がやって来て、モンテネグロの副首相を逮捕するなどということもなくなるでしょう。
 国家連合となると、独自の通貨だけでなく、独自の軍隊もあるわけですね。
 ええ。
 あなたが独裁者と呼ぶミロシェヴィチが、もし戦後も権力の座に留まったとして、民主的なモンテネグロが、独裁的なセルビアとの国家連合を組めるのでしょうか?
 この戦争が終われば、ミロシェヴィチはもうこれまでのような権力を保てないでしょう。それは警察と汚職の力を借りたものであり、いろいろあっても非常に弱体化しているでしょう。その弱さは、西側がもう彼とはやっていけないことを明らかにするだけです。
西側はミロシェヴィチの心理を理解できていないと思います。西側は、橋や工場の破壊がミロシェヴィチのせいだと考えることはできます。しかし、彼が自分のことを世界一話題にされる政治家だと思い、悦に入っているということに気付いていません。長いこと西側にちやほやされたために、ミロシェヴィチは現実感を喪失しています。爆弾を使ってでも彼を止めなければいけません。
結局は彼も、他の独裁者達と同様に国を逃げ去り、あとには廃虚が残されるのです。

(taz 99.05.17)
 

 もどる