村の近くの山の上に、寂しいところがあります。みんなの言うところでは、昔トルコとの戦争があった時に、殺し合いがあって、たくさんの人が殺されました。数日間で2070人も殺されたのです。人々は殺してから、大きな穴を掘ると死体を集めて、そこへ投げ込みました。それが済むと、土をかけて穴を埋め、そこから立ち去りました。そうしてそこはそのままになりました。誰もそこには近寄ろうとしませんでした。怖かったからです。羊飼い達さえそこから遠く離れて歩きました。そこを通りかかると、死人の声が聞こえました。それはトルコ人でした!洗礼を受けていない者や、罪の許しを与えられていない者達でした!だから村人はそこを通りませんでした。それでも時が流れて、この話も忘れられていきました。やがて誰一人として、なぜそこを通ってはいけないのか思い出せなくなりました。そして人々はもうそのことに気をとめなくなりました。羊飼い達が羊を追っていき、子供達が遊び回り、年寄り達が薬草を取りに訪れ、誰もが何の恐れもなく、これっぽちも怖がることなくそこへ行きました。
そこに一人の老女がいて、孤児を娘として引き取り、面倒を見ていました。彼女には子供がいなかったからです。二人は村の外れの、例の話の場所からそう遠くないところに、家を構えていました。その場所が誰の土地でもないらしいので、二人はそこに野菜畑を作ろうと考えました。二人は貧しかったのです。囲いを巡らし、そこに柵を造り、蒔くための種を持ってきました。それで済みました。ある日、二人が畑仕事を始めて、何か草を植えようと穴を掘り始めると、何かにぶつかって母親がつまずきました。
「こりゃ何だい?」
そしてまた同じことがありました。今度は娘がつまずきました。二人は立ち上がって再び掘り始めました。何と勤勉なことでしょう!でも鍬は土の中に入ろうとしませんでした。二人は何度もやってみましたが、何にもなりませんでした。そこには死者の骨があって、それほど深くないところに埋められていたのです。二人はどうにもならないとあきらめて、すっかり疲れて家へ帰りました。二人は、これがどういうことか知りませんでした。次の日、もう一度やってみようと思っていたのです。そうして、どうなることかと不安と心配を抱きながら床に就きました。次の日の朝、二人は目が覚めると起き上がり、急いで身仕度をして、もう一度野菜畑を作る準備をしました。ところがどうでしょう!二人の心は切り裂かれるようでした。囲いも、柵も、二人が野菜畑のために作ったものが壊されていたのです。二人が種を蒔いたところは、もうこの世の地獄の様でした。何一つまともには残されていませんでした。
「あぁ、あぁ、あたしたちは何て辛い思いをしなけりゃならないんだい!」
二人は泣いて叫んで悲しみました。何と無駄な仕事をして、何と無駄なお金を使ったことかと。二人はもう一度掘り始めましたが、辛い思いをした後では、もう働く喜びもありませんでした。
二人はすっかりすてばちになって床に就きました。夜になり、二人が寝入って真夜中になると、外から物音がしてきました。コツ、コツ、コツ、窓を叩く音がしました。
「マリョ!マリョ!」娘はマリョという名でした「マリョ!マリョ!おいで一緒におやすみ!おいで一緒におやすみ!」
マリョは起き上がり、行って扉を開けようとしました。母親がそれを止めました。
「行っては駄目、あいつは吸血鬼だよ。おまえを食ってしまうよ!」
それで娘は行きませんでした。娘は寝床に入って再び眠りに就きました。しかし眠れなくて、何度も寝返りを打ちました。敷布を引き裂き、叫んで、あらゆることをしました。夜が明けると、母親は起きて医者のところへ行きました。
「先生!先生!来て、娘を診て下さい。病気にかかって死にそうなんです」
「すぐ行きましょう」
医者は娘のところにやって来て、娘を見ました。娘は暴れ狂って、口から泡を吹いていました。汗まみれになり、可哀想に、こう叫んでいました。
「おいで一緒におやすみ!おいで一緒におやすみ!でもあいつがあたしを放さない、あたしはどうなるの!」
「先生、どうか娘を治してやって下さい、私の一人娘なんです!」
医者は驚きました。
「一体どうしたんです?」
「こういうことですよ」
「どうしたってんです、お母さん。これは司祭様の仕事ですよ!私に何ができましょう?何もできやしません。早く行って司祭様を呼んでくることですよ、御祈祷をやってもらうんです!」
医者が帰ると、母親は司祭を呼びに行きました。司祭がやって来ると、祈祷の式を行い、骨という骨を手当り次第に焼き払いました。するとそれらが吸血鬼になりました。
四、五年の間はうまくいきました。しかし吸血鬼はまた現れました。娘が一人いて、毎日羊飼いのところへ出かけていました。ある日、夜になって娘が羊を放しているところへ戻ってきた時、道で主人に出会いました。彼は、羊が一頭群れからいなくなったと言いました。彼は彼女をよく思っていなかったので、彼女に言いました。
「おまえ、もう一度行って見つけてくるんだ。さもなきゃさんざんにぶん殴るぞ!今時、羊一頭がいくらすると思ってるんだ?もしいなくなったら、おまえ殴られるだけじゃ済まないぞ、おまえの稼ぎから羊一頭分だけ支払わにゃならんのだ!」
娘は主人に言いました。「でも、だんなさん、今からどうやってそこへ行くんです?もう暗くなって、怖いんです。死人が墓から出てきて、あたしはかじられてしまいますわ。ここで五年前にあったことをお忘れになったんですか?」
「そんなの知ったことか!行って探すんだ!おまえが吸血鬼に食われたって、俺にはどうだっていいこったよ!」
可哀相なその娘は怖かったのですが、やらねばならないことをやろうと決めました。彼女は泣きながら-仕事でぶん殴られ、恐怖で粗相を漏らして-羊がいなくなったと思われるところへ向かって、歩いていきました。途中でもう歩けなくなり、一休みしようと石の上に腰掛けました。座っていると、眠くなってきました。夜中の十二時になると、地面が開いて、吸血鬼が娘の足元に飛び出してきました。可哀相な娘は吸血鬼のうなり声に目を覚まし、恐怖のあまりくずおれてしまいました。彼女はどうなったんでしょう?彼女はどこへ連れていかれてしまったんでしょう?娘が感じた恐怖は、とても語り尽くせないものでした。彼女は叫び声を上げようとしましたが、彼女の口からは声が出ませんでした。吸血鬼は人間の様でしたが、山猫の様におそろしく長い爪を持っていました。吸血鬼は、近付いて彼女を抱きしめると、呼びかけました。
「おいで一緒におやすみ!おいで一緒におやすみ!」
「いや!いやよ!だんながあたしを百ぺん殴ったって!」
娘は振り切って、何も聞かず何も見ない様に叫んで、駆け出しました。吸血鬼は彼女を捕まえようと追いかけました!ついに娘は村の外れにやって来ました。そこには司祭の家があったのです。
「司祭様!司祭様!助けて下さい、吸血鬼が来ます!」
司祭の妻が家から出てきました。
「司祭様は留守よ。どうしたの?」
「助けて、吸血鬼に見つかってしまう!」
二人はどうしたらいいんでしょう!司祭の妻は娘を家の中に入れ、吸血鬼のやってこられないところに隠しました。吸血鬼は十字架を嫌いますから。やがて司祭も戻ってきて、中へ入りました。彼らは吸血鬼を捕まえることができませんでした。吸血鬼はいなくなりました。逃げて、自分の墓へ隠れたのです。
「おまえが座っていて、吸血鬼が現れた場所はどこだね?」
司祭は娘に尋ねました。
「思い出せません」
「思い出さなきゃいけないよ、大事なことなんだ。行って探してみよう!」
司祭と司祭の妻、そして娘と、司祭から助けを求められた男二人がそこへ向かいました。娘が自分の座った石を見つけ、それからみんなは娘を家へ連れて行って休ませました。司祭と男達はその世のうちにさっきの場所に戻り、地面を掘り起こしました。そうして彼らが見たものといったら、それは口から魂が飛び出る様なものでした。彼らが地面から掘り出したのは、服を着て、まったく腐っていない人間だったのです。彼らはそのそれを焼き、土に埋めました。それからは、吸血鬼を村で目にすることはなくなりました。
あるところに一人の女がいました。彼女は一人娘で、一人の男と恋に落ちました。しかし二人が結婚する時になると、彼は「僕達はもう結婚するよ、もう結婚するよ」と彼女を騙し、結婚を先へ先へと延ばしました。そのくせ彼は彼女を本当の妻の様に扱って、挙げ句の果てに他の女と結婚してしまいました。彼は婚約までしておいて、恋人を捨てたのです。男に捨てられた後、女は男のもとを去りましたが、その時こう言い残しました。
「あんたの魂はあんたを離れない、あんたが死んでも、あんたを土の下には入らせない、あんたは七たび掘り起こされる」
そして男が死ぬ時がやってきました。彼が死んだのは夜でしたが、翌日になってみると、彼は土の中から放り出されていました。お墓が、お墓が男を投げ出して、彼は地面に横たわっていたのです。男の親族に娘が一人いて、急いでとって返し、鍬と鋤を持ってきて墓を掘り返し、彼を再び埋めました。でもまた彼は放り出された!放り出された、放り出された、放り出された、七たびも。それからみんなが何をしたかというと、司祭を呼んで、柴と、杭を持ってきて、お墓のところへ行くと、火をつけ、それに杭を差し入れ、真っ赤になるまで焼きました。男が飛び出した墓には大きな穴が開いていた。杭がよく焼けてから、みんなはその杭を男の身体へと、その身体が穴の中深く沈むほどに突き通しました。吸血鬼の叫び声がしました。世界中に叫び声が響いたのです!みんなは男の身体に火をつけて、その場で焼くと、土をかけて埋めました。それから後、誰も男を目にすることはなく、男は二度と姿を現しませんでした。
【Hans-Jürgen Sasse, Arvanitika. Wiesbaden 1991 より】