イブラヒム・ルゴヴァ ドイツ誌に語る
 コソヴォ民主連盟(Lidhja Demokratike e Kosovës; LDK)代表で「コソヴォ共和国」大統領イブラヒム・ルゴヴァIbrahim Rugova氏がドイツ週刊誌 Der Spiegelのインタヴューに答えた;
NATOによる空爆にも関わらず、ミロシェヴィチ大統領にこれまでのところ決定的な変化の兆しは現われていませんが、こうなることは予想されていたのでしょうか?
 私もそれを恐れていました。ベオグラード政府の軍事戦略はよく分かります。というのも、私自身かつてユーゴスラヴィア軍に所属していたことがあるからです。要するに、最初の攻撃を受けて後、彼らは勢力を結集し反攻に転じるのです。今回でいえばそれは軍のゲリラ戦であり、その最終目標は、コソヴォからのアルバニア人追放です。
西側諸国の中でも、NATOは状況を見誤り展望のない戦闘をしかけたのではないか、という批判がありますが。
 これまでのミロシェヴィチ体制が左派[ミロシェヴィチの民族主義路線に批判的な国内民主派を指す]にいささか近いということで過大に評価されていたのではないでしょうか。ミロシェヴィチは、クロアティアとボスニアでの敗北を受けて、新たな戦場を確保しようとしているのです。彼が政治的に生き残るためには、たとえ地域を不安定に陥れてでも、それをやる価値があるのです。彼にとって重要なのは、バルカンにおけるセルビアの優位なのです。
ベオグラードの政府は、今回の紛争でロシアの支援をどのように利用するつもりなのでしょう?
 ロシアはバルカンの発展に否定的な影響を与えており、特に軍事的には武器輸出という形で間接的に及んでいます。ロシアにおける極右勢力にとって、NATOの不安定化は、特に発足50周年ということもあって、実に好機なのだと思います。
現在何万というアルバニア人が近隣諸国へと逃れています。空爆の継続で虐殺は阻止できるのでしょうか?
 ベオグラードの政府は時間稼ぎを狙っているのです。アルバニア人がまだいるからと言う理由で、NATOがすぐに地上部隊を派遣しないなら、コソヴォは大変な混乱に陥るでしょう。残虐な殺戮、民族浄化は既に始まっているのです。NATOは、いざとなればセルビアの全滅をかけてでも、勝負に出るべきです。
しかし西側諸国の大勢としては、あくまでベオグラード政府の了解を取り付けた上で、地上部隊をコソヴォへ送りたいようですが。
 ミロシェヴィチは、西側の不一致を狙っているに決まっています。今我々の置かれた状況は、ランブイエやパリでの交渉時とはまったく違うのです。セルビアは、西側の期待に反して、最初の空爆でも屈服しなかったのです。NATOとしても、狂人による世界支配を許すはずなどありますまい。NATOに同盟しているドイツ連邦軍は直ちに、既にマケドニアに駐留している12000人に20000人を空路増員し、コソヴォへ攻撃をかけるべきだと思います。
しかしどういう戦略で?何千というアルバニア人が、セルビア軍の戦車に包囲されているのですが。しかもミロシェヴィチは主要な工場に、志願してきたセルビア人を「人間の楯」として配置しています。彼が再び交渉を提案してきたとしても、NATOは妥協すべきでないのでしょうか?
 それこそ彼の目指すところではありませんか。そこから彼がどんなことを狙っているか、誰にも分からないのですよ。我々にも、またコソヴォ解放軍にも、人質にされたアルバニア人を解放することはできないのです。
もしセルビア軍の進撃によって更なる残虐行為が行われても、アルバニア人代表団は再び交渉のテーブルに就き、セルビアとの話し合いに臨む用意があるのでしょうか?
 それは実に難しい決断でしょうね。アメリカやEUの協力が必要でしょう。
その場合、コソヴォ解放軍も対話に参加するのでしょうか?
 我々は合理的に考えねばなりません。コソヴォ解放軍の中にも、和平協定より戦闘継続の方が有利だと考えている人達がいます。こうした愛郷者達の多くが家や家族を失い、何よりも戦闘で決着をつけたいと思っているのです。しかしそういう人達は孤立し分散しており、近しい者を持たぬ小集団に散らばっています。コソヴォでゲリラ戦争などしても意味がありません。そんなことをしたら、コソヴォからアルバニア人は一人もいなくなってしまうでしょう。それはコソヴォ解放軍の中の大多数が知っています。
あなた自身が明確にコソヴォ解放軍を支援したことはありませんでしたが、こうした急進的組織の力無くして、つまりあなたの十年来の非暴力路線だけでベオグラード政府と対峙することはできなかったのではないですか?
 ええ、とは言えそれは悲劇的なやり方です。私が平和的な手段で問題解決を模索していた時、西側諸国は問題をよりよく理解するどころか、棚上げ状態にしていたのですから。90年代初め、我々は自制を求められ、いつかは状況を打開すると約束されたのに、忘れられてしまったのですからね。
 コソヴォの政治的指導者としてあなたはこうした急進的勢力に影響力を与えてこられたのでしょうか?
 私の決定は、コソヴォ解放軍幹部の大半にも受け入れられています。しかし、解放軍上層部には様々な思想信条が混在しており、組織構成の上で大きな問題があるのです。このために共同行動を語るのが非常に難しいのです。 
 解放軍政府とあなたとの間で、今後どういう共同行動が可能でしょうか?
ルゴヴァ:今は戦争中ですから、政権構想など無駄な贅沢だと私は思います。
 3年間の過渡期[3月のパリ会談における合意事項の一。和平締結後3年後にコソヴォ自治州独立の是非を問うという内容]をおいた場合、根本的に変化することは何でしょうか?
 我々の独立の意志を受け入れる様な国際評議機関ができることになるでしょう。そこで我々は国際的に正当性を得て、コソヴォ地域を統治できることになるでしょう。そうなればセルビアも、これ以上戦争によるリスクを冒すべきかどうか考えるようになるでしょう。その時には我々も経済的・軍事的により強くなっているでしょうから。
 軍事的に、と言いますと?
 我々に必要なのはゲリラ組織でなく、常設軍です。それを我々は手にすることになるでしょう。コソヴォ解放軍は解体されませんが、NATOの支援の下で、3年の時間をかけて生まれ変わることでしょう。一部は警察へ、一部は民間の警備業務へ廻されるでしょう。
 現時点では、むしろ戦争がユーゴスラヴィア国境の外側、例えばマケドニアなどへ波及すると見られています。そうしたらバルカン半島は戦火に包まれかねません。
 我々は、コソヴォに独立のチャンスがある限り、いかなる煽動も排除する様にマケドニア・アルバニア人達と連帯しています。我々はマケドニアとの国境を管理しているので、マケドニア総人口の40%を占めるであろうマケドニア・アルバニア人の政治的権利を強化していけるのです。我々は、マケドニアにおけるアルバニア人があくまでも少数民族としての待遇を受ける様、注視しているだけなのです。スコピエ[マケドニア共和国首都]の政府は我が避難民を恐れる必要などありません。この人達はみないつかコソヴォに帰るのですから。
 西側諸国がこの人道的惨状に直面して態度を改め、コソヴォの即時独立に踏み切るとはお考えになりませんか?
 ミロシェヴィチが歩み寄らない以上、その可能性も捨てきれないですね。国際法ならそれが可能ですから。我らコソヴォ・アルバニア人は今ゼロの状態に置かれており、家の中ですら安全ではありません。我々に残されているのは、ただ「希望の原理」だけなのです。

(Der Spiegel 99/14(04.05))
 

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