ヂェヴァヒル・スパヒウ「未完」  [抄訳]

ヒマラ 1995年7月


霧の

中より

出て


芸術

音に死に

色に思い乱れ

言葉に死に思い乱れ思い返す


孤独な山

孤独な山。

霧の中より出て私を目の当たりにせよ。

私は苦悩を見た、

私は稲妻を見た。

今おまえに向かい合う。

孤独な山。

孤独の孤独。

囲まれた人生

周りは海。

そこでおまえは孤独のまま傷つき揺れ動く心で何をする、

孤独に群れて、そこで何をする?

いかなる大地の運命に波はしるしを刻む、

いかなる大空の孤独にあの雲は流れる?

私は来る支度をする。私の前に

かもめの翼の上に

来たのは夢。

ロビンソンがロビンソンの白髪を知ると言うのか、

それともその蔭りは海水の上の灰色の蔭?

人は苦悩の上に、

人は稲妻の上に

それを見たのは

     日の出前。

苦悩に次ぐ苦悩、

稲妻に次ぐ稲妻。

孤独な山に孤独

入っては出る

悲劇役者の様に

霧の中を。

孤独な山だ。

孤独だ。

こ・ど・く・だ・あ

ヒマラ 1995年7月22日


不運

もう何ヶ月も私の哀れな腕は動かず

頭も芯まで凍えきっている;

どこから来てどこへ去るのかは知らぬ

身体の筋に深く突き刺さるこの氷。

いつの日も指はニコチンに語る

麻痺した言葉の数々…そして…今日もまた…昨日と同じ;

君がこぶしを鏡に向けんとする様に、

君の顔をも突き破らんとする様に。

孤独の喪失感が私を悩ませる、

今ひとりでいる感じは、死体置場にいるごとく;

もし大粒のパン屑が私にふりまかれたなら

からすにさえも私は不吉なものを感じなかった。

罠をかける、昼も夜も;冬も夏も

魔法をかける、刃を磨ぎ澄ます;何たる不吉な同盟!

あらゆる幻想の廃虚のあとに、風は

吹く、ああそして、君の上、あたかも墓の上のごとく…

1984年12月


息子

遠く

遠く

    ああ我が子よ

夜明けを待つ

口づけするために

だがおまえは今どこに

夢の中で会えるのか

遠く

遠く

    ああ我が子よ

我が寂寥の花


世界が眠り

そして海が昼の愚行の悔いを噛み砕く頃、

かもめが追憶の彼方に鳴き

そして星々がーその眼を閉じることなく-

静かにたたずまい、そして消える頃

幕屋から出る

そして馬に鞍を付け、

何ものをもまたがず

そして周囲を回る。

コスタンディンは一人ではない。彼は父親だ。

誰も彼を見ない、彼を知る者もない。

月明りの下、馬を柵につなぎ

土を払い、月光の下を歩く

傍らには眠れる子供達。

腕を伸ばし、毛布をかけてやる

夢を見る様に、夢が招かれる様に。

と急にひとかたまりの不安が喉をつかみ、

咳き込む、

子供達が目覚めぬか。

起きて食物を求めぬか:彼は

もう長いことおとぎ話を忘れている。

沈黙が訪れる、

誰もいない住居へ向けて旅立つ、

子供達に気付かれぬ様、目でカロントに語りかける、

死せる他の者達を気に病まぬ様にと。

ああ、彼の魂は天蓋を満たす、

身体を離れ彼方へ

地下の夜の膝元へ、

                ただ星のない夜。

オリーヴの樹はたたずむ

頭上の蝋燭の様に。

ヴロラ 1994年8月4日


***

渇く

渇く

私は渇く

ああ

どこに

どこに

あるのだ

泉は

出る

外へ

あてもなく

探す

出会う

ナイムに

イスタンブール 1995年5月22日

[訳者註;ナイム・フラシャリ(Naim Frasheri 1846~1900) アルバニアの国民的文人]


ユスティナ・シュクピ

                ペトロ・マルコに

一千と一歳。

地中海の夜の様なグレイの髪。

子供はなし。

すっかり飲んだくれて、

スペインに傷を負った彼女、

最後の一息をついたのはさびしい診療所。

枕元には詩人という太陽。

                   1987


               詩人であり友人である

アギム・スパヒウに

不安は彼に眠りを与えない。

夢は果てなき空を失い、

腕は果実を集め、瞳は熱情を、

樹々は死の緑に燃え落ちる。

また別な夢の大空、

また別な心の大地。

夜はただ破れた屋根をしつらえるだけ。

どこへ向かう?

便りをくれ。


没落

かもめが私の瞳を出入りする。

そして君よ、

失うことなかれ、大空よ、白き輝きを

聖書の青の広野を切り裂く光を。

私の心に巣喰うのは

無限の世界のあらゆる色。

大空よ、

かもめを見捨てるな。

                1994年9月8日


パーゴラ

     Th.

パーゴラが一つ

霧の様に

緑色で

「スカンデルベウ」広場に生い茂る

酒飲みの他

誰にも見えない。

[訳者註;パーゴラは、蔓棚をあしらった洋風のあずまや。ペルゴラ]


草地もないのに

草地もないのに二千の羊。

マドリードの通りに二千の羊、

何という白い流れ、

キリスト者の。

羊の流れ。

行進を率いるのはガルシア・ロルカ、

詩人だ

     唇にはアンダルシアの笛。

[フェデリコ・ガルシア・ロルカ(Federico García Lorca 1899~1936) スペイン・アンダルシアの民衆詩人。スペイン内戦でフランコ派により銃殺。作品に『ジプシー歌集』(1928)『血の婚礼』(1933)等]