2008年度から広島文教女子大学では英語のみが必修外国語となり、ドイツ語・フランス語・中国語は「選択必修科目」から単なる「選択科目」に格下げされました。こうした状況を受けて、外国語講師らの要望により、語学の初回授業の時間を利用して各外国語の内容や授業概要について紹介し、受講を勧める合同ガイダンスの場が設けられることになりました。以下は、「ドイツ語」に関する説明時に配布した資料です(一部改訂 隠しリンク多数)。 |
ギリシアやトルコに旅行すると、英語よりもドイツ語の方が通じることがあります。全然ドイツに近くないのに、なぜでしょう?ドイツの町を歩いていると、トルコ料理シシカバブの店がやたらと目に入ります。安くておいしいんですが、なぜでしょう?朝青龍夫人はモンゴル人ですが、ドイツ語が話せます。なぜでしょう? |
①ドイツ語=ドイツのことば ではありません。
ドイツ語はドイツ、スイス、オーストリア(オーストラリアじゃないよ)、ルクセンブルク、リヒテンシュタインの公用語です。
ドイツ語はベルギーの東部やイタリア南チロル地方の地域公用語です。
ドイツ語はフランスのアルザス地方やデンマークの北シュレスヴィヒ地方の日常語です。学校でも習います。
ドイツ語はポーランド、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、チェコ、スロヴァキア、スロヴェニア、クロアチア、ボスニア、コソヴォ、マケドニア、セルビア、ギリシアなど中部・東部ヨーロッパの国々で広く通じます。それだけではありません。ロシアにもドイツ語を話す人がいます。さらにアメリカ合衆国、オーストラリア、アフリカにもドイツ語を話す人がいます。
ドイツ語はドイツだけでなく、ヨーロッパ大陸で9000万人(ロシア語につぐ第2位)、EU(ヨーロッパ連合)では最も多くの人々が話していることばです。ヨーロッパ以外のドイツ語話者を含めると、その世界使用人口は1億人以上で、実に日本の総人口に匹敵します。ちなみにEUで英語が話されているのはイギリスとアイルランドですが、この2国の人口を合わせても7000万人を超えません(ちなみにイギリスに住む人がみんな英語だけを話しているわけではありません)。
②外国語=英語 ではありません
大学に入って「英語だけでも大変なのに○○語なんて・・・」と思う人もいるかもしれません。でもそれは「○○語は英語より難しい」という(実際に○○語を学んでもいないのにそうだと思ってしまう)先入観や思い込みによるものではないでしょうか。実際には、英語が苦手でも、ドイツ語や中国語やフランス語の方がずっと得意になる人もいるし、その経験がきっかけで、英語もできるようになる人もいます。そうそう先入観といえば、「ドイツ語ができるとお医者さんのカルテが読める」と思っている人が毎年いますが、今どきドイツ語でカルテを書く医者なんかいません。
日本の中にいると、海外なら英語で何とかなるさ!と思い込みがちです。でも実は英語が通じない場所は地球上にたくさんあります。英語だけが外国語ではありません。それに「英語一辺倒」では味気ないと思いませんか?外国の人と、その人がふだん使うことばで話せた時(そして相手が驚きながら「私たちのことばがわかるのかい!」と喜んでくれた時)の気分は、一度経験するとやみつきになりますよ。
さっきと同じことですが、もう一度言います。「英語だけでも大変なのにドイツ語なんて」なんておじけづく必要はありません。日本語でも英語でもない「第3の言語」(別にフランス語でも中国語でも韓国語でもいいのですが)を学ぶことで視点が変わって、英語学習のいきづまりを打破できる可能性があるからです。遠回りのようですが、案外「英語一辺倒」よりも英語が上達するかもしれません。
③英語がダメ=ドイツ語もダメ ではありません
ところで皆さんの中には英語に苦手意識を持っている人がいるかも知れませんが、それでも英語の基本単語や重要なフレーズは何となくおぼえているのではありませんか?それは、皆さんが中学・高校の6年間を通して(授業や宿題や試験によって)毎週何時間も英語を読んだり書いたりする作業を繰り返して(させられて?)きたからです。それだけやれば、それなりの量の情報が定着するものです。
ではドイツ語はどうでしょうか?英語と同じです。時間をかけて勉強すれば、それだけの語彙力や会話力は身につきます(フランス語でも中国語でも同じことです)。
でも最初に言っておきます。初めての外国語を学ぶのに、週1回90分の授業だけでは足りません。ええ絶対に。だから必ず復習してください。ドイツ語は動詞や形容詞の変化が多く、名詞には性の区別があります。つづりと発音は英語ほど不規則ではありませんが、だからといって何の練習もせずにおぼえられるほど楽ではありません。毎日10~20分ずつでも聴いて、書いて、読みましょう(そのために皆さんの教科書にはCDがついています)。期末試験の前日にいきなり何時間もやるのはダメです。身体がもちません(ウソだと思うなら先輩に聞いてごらんなさい)。少しずつ確実に続けるのが、いちばん効果的です。
わからないことは授業中でも沈黙せずに私に質問してください(質問されて気を悪くする教師はいません・・・たぶん)。授業の前後でも昼休みでもかまいません。
山登りに例えると、英語は入口も広くて道もなだらかで親切そうな案内人がたくさんいて売店や山小屋もいっぱいある山です。みんなが登るので寂しくもありません。「どうして登るの?」と聞かれたら「みんなが登ってるから」「役に立ちそうだから」と答えればいい(そもそも「何で英語やるの?」なんて聞かれませんよね普通は)。ただし、さんざん歩いても頂上はなかなか見えません。一方ドイツ語は入口が狭くて登り始めたらいきなり崖で案内人も少ない愛想の悪い山です。たまに上の方から転げ落ちてくる人もいます。おまけに周りから「どうして登るの?」「何の役に立つの?」「きついからやめときなよ」などと言われかねません。しかしその崖をよじ登ると、一気になだらかな丘が広がっています。花も咲いているし、涼しい風も吹いています。頂上はすぐそこです。私の授業はその最初の崖をよじ登る段階だと考えてください。
それでは、次回の授業でお目にかかるのを楽しみにしています。
(参考書)授業では教科書と辞書しか使いません。参考書は必要ありません(買いたい場合は相談してください)。ここでは、読んでみたら面白いかもしれないものを紹介します。あくまでも面白いだけで、読んだからといって授業に役立つわけでも何でもありません。買う時は、書名と出版社名をメモして各自書店に注文すること。
『ドイツ語のしくみ』(清野智昭 白水社 1400円+税)
『にぎやかな外国語の世界』(黒田龍之助 白水社1500円+税)
『ダーリンの頭ン中』(小栗左多里,トニー・ラズロ メディアファクトリー 950円+税)
『米原万里の「愛の法則」』(集英社新書 660円+税)
【ついでに中国語】
『近くて遠い中国語 日本人のカンちがい』(阿辻哲次 中公新書740円+税)
『はじめての中国語「超」入門』(相原茂 ソフトバンク新書750円+税)
【ついでにフランス語】
『フランス語のしくみ』(佐藤康 白水社1400円+税)
『フラ語入門、わかりやすいにもホドがある!』(清岡智比古 白水社1500円+税)
(辞書)皆さんの親が学生だった時代に比べれば、近年の学習独和辞典はどれも親切でわかりやすく書かれています。何を買ってもかまいません。ただし、次の2点には注意してください。
①ポケット版など小型の辞書は避けてください。語形変化や用例など学習に必要な情報が載っておらず、初学者には使いこなせないからです。ある程度学習が進んでから、あるいはドイツ語圏へ旅行する機会ができてからにしましょう。
②ドイツでは1998年からドイツ語の新正書法(要するに新しいつづり)が採用されています。1998年以降に出版された「新正書法対応」の辞書を使うようにしましょう。時々、親や親戚の学生時代の辞書を持ってくる人がいますが-大変申し訳ないのですけれども-そんな古い時代の辞書は使えません。ちゃんと新しいものを買ってください。たまに、辞書なしで1年目を乗り切ろうとする人がいますが、悪いことは言わないからやめといた方がいい(ウソだと思うなら先輩に聞いてごらんなさい)。
初級者向けで新しいものをあげておきます。他にも優れた本はあるので、各自が書店で手にとって内容を確認するのが一番です。実物を手にとって、自分に相性の良いものを選びましょう。
『やさしい!ドイツ語の学習辞典』(同学社2500円+税)
『新アクセス独和辞典』(三修社4000円+税)
『スタート独和辞典』(三修社3200円+税)
『エクセル独和辞典』(郁文堂2800円+税)
『パスポート独和・和独小辞典』(白水社2800円+税)