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エルミル・ニカ 『罪びとたちの夜』

逃亡
実際の事件に基づく話

 我々は逃げ出すことに決めた。夜だった。八日目のことだった。我々は全員シュコダルの生まれで、おおよそ同い年だった。もっともジョンだけが二月二九日生まれで、身体も弱いと思われていたから、我々は彼が四年に一回しか成長しないのだと言っていた。それでも彼は腹を立てたりしなかった。仲間に腹を立てるような習慣は誰にもなかった。蓄えもないまま我々が抱え込んでいたありとあらゆる物事の中には、ここから逃げ出そうという考えも含まれていた。それを最初に言い出したのはバルヅォクだった。彼はかつて我々に向かって、当時のアルバニアを支配していた共産主義体制に反対する意見を公然と表明したことがあった。バルヅォクはこの体制によって自分の父を銃殺にされており、だから我々も何処までも、彼の見方は当然だととらえていた。彼の家族の一部はアメリカへ移住しており、その時にバルヅォクも少なくない額の遺産を相続したが、その経歴の故に一銭たりとも手にすることができなかった。彼こそ時代の子であり、極めて博学で、秘かに外国文学を研究し、「退廃的」な音楽を聴いていた。いささかも躊躇うことなく認めるが、事実、或る種のやり方であれ、また別のやり方であれバルヅォクは彼自身の思考で以て我々に多大な影響を与えていたのだ。こうして、徐々にではあるが我々も人民権力や、古びたマルクス主義のイデオロギーの中に我々を押し込めようとする枠組みをめぐって彼が我々に供するそのパノラマに馴染んでいくと、やがてはほぼ全員が体制に対する不満をあらわにし始めた。すなわちゲンツ、ブヤル、ダシャミル、ウカ、ジョン、シュペンディ、そしてこの私だ。私はいつもしんがりだった。恐らくそれは私の気性が極度に引っ込み思案で、用心深く、先頭に立つような性格でなかったせいだったろう。
「さあ行こう」決然とした口調で、その九月の晩にバルヅォクが言った。
「ここで生きていたって、ただ灰色一色だ。俺たちと別の世界の隔たりはほんの数メートルだ、考えてもみろ、そこまで辿り着くのに必要なのは、ほんの少しの勇気だけだ、他には何もいらない」
我々は黙っていた。誰も話し出そうとはしなかった。その一歩を踏み出すには熟慮が必要だった。川の向こう岸から死体になって戻って来た者も少なくなかったのだ。
「俺はもう自分の心を決めたよ、此処にいたってもうこれ以上どうしようもない。君たちも決めろ、そうしたら出発だ」
 今度は我々の番が回ってきた。たとえ馬鹿げたことだとしても、何かしら言わないわけにはいかなかった。沈黙が行くところまで行って、張り詰めた雰囲気の中で、無気力な状態が生じていた。
「たぶん、そこまで言うんなら、君が正しいんだろうな」ブヤルが答えた。「もし国境を超えたら、向こうには大した豊かさが待っているんだろうな、でも向こうには知り合いもいないし、その他大勢みたいに交差点の真ん中に突っ立っていたって危ないし」
「この馬鹿!」バルヅォクは苛立った口調で反論した。「俺がそこから後は運命の御慈悲にお前を引き合わせてやろうじゃないか、わからないかなそれが?!俺がご先祖から遺産を受け継いでいる限りは、それこそお前たちだって金がないだの生活用品がないだのと苦しむことなんかないだろうってことさ。誰が向こうで勘定を払うかなんて、そんなの気にするなよ!あのくそったれな国境線を超えて、そこから自分の足で歩いて行ければそれで充分じゃないか」
「でも、うちの家族はどうなるんだ?絶対に迫害されるよ」ジョンが声を震わせながら呟いた。
「心配は無用だ」ジョンをなだめるようにバルヅォクが言った。「そのことも全部考えてあるさ。向こうで稼げる金があれば、家族を存分に養うことだってできるんだぞ、国でいざこざを起こす必要なんかありゃしない、こんな国なんかでな!」バルヅォクはまくし立てた。
 息が詰まるような静寂が我々を支配した。もはや我々はバルヅォクに向かって抗弁することはなかった。こうして我々は向こう側へ向かうことにした。渡るのはそれから二日後の、湖の水辺を巡回する警備兵たちがまばらになる日没時だった。ゲンツは、自分自身も働いている漁師組合からボートを確保することができた。仕事仲間には友人数名と釣りをするのに必要なんだと話してあった。仕事仲間の方もゲンツの柔和な性格を知っていたから、その言葉に疑いを持たなかった。
 ボートはシロカ[訳註:アルバニア北部のシュコダル湖南岸に面した村。対岸はモンテネグロ(この時代はユーゴスラヴィア)]の近くの、人目につかない入り江に移しておいた。完全に秘密裏に、入り江の一番奥まで運び込み、たまたま通りかかった人や羊飼いに見つからないよう、葉で覆い隠した。
 とまれ、こうして我々は、生きるか死ぬかに関わるこの決断を口にするのは葬儀の夜だけにしよう[訳註:つまり「秘密は墓場まで持っていこう」]と約束しつつ、沈黙の中で立ち去った。
 帰り道を辿っていたのは私とジョンだった。どちらも口をきかなかった。我々の頭に鷹のように[訳註:「鷹」のアルバニア語skifterには「勇敢な」「激しい」の意味がある]浮かんでいたのは、逃げ出すという考えと、そして自分達が向こう岸へ渡った時に自分たちの家族に及ぶであろう事柄だった。どのぐらい向こうに留まるかということは考えていなかった。ブナ橋のたもとに辿り着くまで、黙ったまま、数キロは歩いたに違いない。ジプシーが住みついている昔からの地区を通りかかった。そこには、まるで運命の皮肉のごとく、ブナ川の対岸から離れて、独自の法律を持ち、少しばかり異教徒じみた別世界が造られていた[訳註:ブナ川(lumi i Bunës)はシュコダル湖から流れてアドリア海へ注ぐ川。ブナ橋(ura e Bunës)はそこに架かる橋の名]。そこに足を踏み入れれば、家から遠く離れ、運命に罰せられたような居心地の悪さに襲われるのだ。好奇心旺盛な子供たちに後を追われて、我々は自分たちが招かれざる訪問者であることを思い知らされるのだった。我々は大人しく道を歩いた。遠くに町の灯りが見えた。自分の内側で何かがぶつりと切れるのを感じた。私はジョンの方を振り返った。思わず知らず互いの視線が交差した。我々は橋の上へ来たところだった。
「マルティン」耳元でゲンツの声がした。
「あと二日したら、ここを離れるんだ・・・ずっとな。お前はそういうことをちゃんと考えているのか?」
「ああ」私は何とか返事した。「だが今となってはもう遅い。もう後戻りはできない」そう言って私は、会話が続くのを避けようと、向こう側に目をやった。
「もう後戻りはできない、か・・・」私が最後に口にした言葉を自ら繰り返す、ジョンの消え入りそうな声が聞こえた。
 我々は左に曲がり、町の入口へ辿り着くと、夕方の散歩をしている人の流れに紛れ込んだ。そして全ては普段通りの中に溶け込んでしまった。
 国境を越える前の晩、私は、疲れ果て押し黙ったまま、自分の部屋に閉じ籠って過ごした。頭を抱え、全身を震わせていた。家族のことを考え、自分が去った後に家族にどんな影響が及ぶのかと考えると、私の身体に震えが走った。家の中を歩き回る母の静かな足音と、台所で食器の鳴る音が聞こえてきて、自分の呼吸がもつれるのを感じた。まだ道筋の見えないこんな話をしてしまったら、母は私の出発を大いに嘆き悲しむことだろう。いつだって、私には弱いところがあった、姉二人の後に生まれた男だったから。
 私はずっとベッドの中で身動きもできないままだった。本が手から落ちたが、私はそれに気付きもしなかった。毛布は床に放り出したままだった。そうやって横たわっていると、自分自身は巨岩の苛酷さに縛り付けられたプロメテウスの、まさにその運命にも似ていた。自分とプロメテウスが違うのは、ただ時間だけ、伝説の埃をかぶった長い長い時間だけだった。恐らく私もいつの間にか、ゼウスの怒りの餌食にされてしまったのかも知れない。父の乾いた咳を、私は自分が陥った悪夢の中で思い起こした。父はたぶん、いつもと同じように向かいの部屋で研究に励んでいるのだろう。数か月間にわたって父が集中的に取り組んでいたのは交響曲の舞台設定で、十一月の上旬に初公演が予定されていた。町じゅうの誰からも、父は芸術家であり博識な人物として知られていた。父はモスクワで作曲を学んでいたことがあった。芸術に携わらせたいという思いで、父は私を幼少時から育てることに努めてきたのだが、私には芸術家になれるような才能のかけらもなかった。父がこの世からいなくなり、失われた一隅で身動きもできなくなった時、私とこの町を結び付けてくれそうなことといえば唯一つ、家の名を受け継ぐことだけだ。たぶん父にはそんなことなど思いもよらなかったろうが、出て行くこと[訳註:国外へ去ること]も前から急いではいなかった。だが私が出て行ったら父は一体どうなるのだろう?そして私の妹たちは?脱走者の出た家の娘を、自分の息子たちの嫁にしようとする者などいないだろう。
 その間じゅうずっと、仲間たちとの議論や言い合いが、思いと迷いに押しつぶされそうな私の頭を、ハンマーのように殴打した。私は立ちすくんでいた。これからどうすればいい?仲間たちのことは信頼していた。だが家族にも、親戚にも、私の狂気じみた冒険の結果を引き受ける謂れなどないのだ。あれこれと思いを巡らせてみて理解したのは、自分や自分の仲間たちや家族の運命について決めなければならないのはまさに自分自身だということだった。
 そして遂に私は決意した。投降することにしたのだ。明日の朝。警察署だ。もうどうすることもできなかった[訳註:原文は「私にはもう溺れる場所もなかった」]。戦線の両側から焼かれ、焼け出されたのは私だった。少なくとも、戦場でさえも捕虜が殺されることはない。私は彼らのところへ行き両手を上げる。そして言うのだ、自分が後悔しているということを、全ての責任が自分にあるということを、自分が父の名を汚したことについて党と皆に恥ずかしく思っているということを、そして、このような軽率な思想は労働と献身を以て一掃したいのだということを。
「これなら」私は思った。
「きっと俺にとっても家族にとってもましな状況になるだろう」 私は震えていた。額に冷や汗が噴き出ていた。何度も寝返りを打ったが、その晩は眠れなかった。
 その朝は遅かった。私はまだぼんやりしたまま起きた。証言しようと思っていたことは記憶していた。身体が痺れたような感じだった。ひと晩じゅう、友人たちの背後でこのような恥ずべき行いをとったことで、私の良心は途方もなく苛まれていた。
「だがそんなものだ、人生なんて」私は繰り返し心の中で呟いた。鏡の前に行き、自分の顔を映してみた。奇妙なことに、自分の見た目は何ひとつ変わっていなかった。ただ、目が少しばかり小さくなっていて、その下に真っ黒いくまが、長時間の不眠と苦悩のあらわれとしてくっきり出来ていた。私は手早く着替えた。そして家人を起こさないようつま先立ちで歩き、注意深く後ろ手にドアを閉めると、外へ出た。
 辺りは完全な静寂に支配されていた。夜明けの冷気が頬に当たった。雨はゆったりと町の上に降り注いでいた。シュコダルではいつも通りの、秋の訪れを告げる雨だった。路上には早朝の通行人と、工場から出てくる夜勤明け組の姿が見えた。私はその人たちの目を避けようと苦心した。どういうわけだか、そういう反射運動をしてしまっていたのだ。自分たちの逃亡について我々は誰にも話していなかっただろう。自分こそが唯一人、その秘密を暴露しようとしているのだ。
「何たる恥さらしだ!」私は思った。
「だが、そうしなければならないんだ、そうしなければ」自分のような弱い性格にとっては実に困難なこの時にあって、私は自分自身を鼓舞するようにそう言い聞かせた。そんなことを考えているうち、気付けば警察署の前にいた。足ががくがく震え始めたが、私は全身を覆う神経の高ぶりを必死に隠そうと努めた。きっと私の顔には、黄褐色の影が落ちていたに違いない。目はぎゅっと縮まっていた。両唇がぱさぱさに乾ききっているのを感じた。それでも私は勇気をふるい、入口に任務に当たっている守衛の方へと歩みを進めた。
「おはようございます!」私は朗らかに声をかけた。
「何でしょう?」相手は冷たく返事してきた。「どなたに御用です?」
「ちょっと警部さんとお話ししたいんですが」私はごく平静な風に話しかけた。相手はこちらを凝視していたが、そこから探るような目を向け始めた。私は持てる限りの力を振り絞って、冷静を装った。
「で、警部に何の用事ですか、あなた?」相手は不審げに訊いてきた。
「いやまあ、告発をしたいと思いまして」
「告発ですって?でも何故です、何があったんです?」
「ええ・・・まあ何と言うんでしょうね?私は・・・敵の組織を発見したんですよ」
「何ですって?!」と叫ぶ守衛は、驚きを隠さなかった。
「それであなたはいらっしゃった、わざわざご自分で出向いて来られたと、そういうわけですな」そして彼はすぐさま道を開けてくれた。
 私は歩いて行った。背後に、制服の人物がもう一人、着いてきていた。私にはその顔の見分けがはっきりつかなかった。雨と、垂れ込める曇り空とが私の視力をかき乱した。幾らか階段を上り、薄暗い廊下へ出ると、私を案内してきた警官がドアの一つを、その建物の単調さを打ち破るような音でノックした。
「入りたまえ!」中からくぐもった声が聞こえた。私と警官は中に入った。目の前はがらんとした環境で、何の匂いかはっきりとはわからないが、重苦しい匂いが立ち込めていて、壁は淡い色で塗られていた。指導者を描いた肖像画が目の前の壁に掛けられていた。その肖像画の下に、背が低く、小太りで、脂っ気の多い黒い髪をした男がいて、火のついたタバコを口にくわえて座っていた。テーブルには赤いクロスが掛けられていて、彼はそこでその日の新聞を読みふけっていた。部屋のカーテンのレースにとまっている蠅の羽音も聞こえそうな沈黙が続いたが、やがて彼は顔を上げた。私の横にいた警官が拳を上げて敬礼した[訳註:右腕を曲げ、拳を顔の高さまで掲げる挨拶。パルティザンの敬礼の名残で、社会主義時代のアルバニアでは頻繁に行われていた]。部屋の主は私をじろりと一瞥し、眉をひそめた。
「何か用かね?」と彼は、私を連れてきた警官に向かって訊ねた。
「はあ」警官は話し始めた。「こちらの同志が、何か陰謀が行われているらしいと告発に来られまして」
 警部は私をもう一度見た、ただし今度は長々と頭のてっぺんからつま先まで凝視して、しばらくすると警官に向かってこう言った。
「二人だけにしてくれ」
 警官は再び拳で敬礼すると、部屋を出て行った。
「いやはや!」警部は、今度は私の方を向いた。「何を話しに来たんだって?正直に言ってみたまえ[訳註:原文は「党に心を開きたまえ」]」彼はそう言って、指導者の肖像画に顔を上げてみせた。その声に強いなまりが混じっていたので私は、自分の目の前にいる、青い制服に窮屈そうに身を包んだこの人物が、この町の生まれではなく、どこか南部の方から来たのだと気付いた[訳註:この話の舞台であるシュコダルはアルバニア北部の町]。それで、これは実に厄介なことになりそうだぞと思った。それでも、自分から手をつけた任務は最後までやり遂げなければならない、そこで私は事実を自分の頭の中で整理しておいた通りに説明することにした。
「ええはい、警部さん」私は話し始めた。「党に対して私たちは何一つ隠しません、のみならず党に命も捧げます」
「そりゃ結構!」私が示した協力の精神と率直さに対して、警部は満足げにそう言った。
「それで問題なのはですね、私が、それと友人が七人で合わせて八人ですが、逃亡しようと決めたことなんですよ」
 警部は後ろを向くと、壁に高々と掲げられている指導者の肖像画を再び見やり、それからタバコを灰皿に押し付けた。
「続けたまえ!」警部は先を促すように言いながら、その間じゅう指先でテーブルをせわしげに叩いていたので、私には彼が内心の興奮を抑えようとしているように思われた。
「分かっています、自分がやろうとしていたことが軽率な、許されない犯罪だということは。でも私は党に対して包み隠さず、自分が後悔していることを告げるために参ったのです。全ての責任は取ります、この過ちは献身的な労働で償うつもりです・・・私は、戦争[訳註:「反ファシズム解放戦争」を指す]とも縁の深い愛国的な家系の生まれですが、こんな愚かな息子では自慢にもなりません、敵の思想に陥れられてしまったのですから」
 私がそうやって喋っている間、警部は私の身元証明書[訳註:原語pasaportëには「旅券(パスポート)」だけでなく国内での「身元証明書」の意味もある]を注意深く調べていたが、どうやら彼は、私の名前から父のことに気付いたようだった。
「なるほどねえ」警部は穏やかに言った。「それで、いつ出発することになっているのかね?」
「今日の夜です、陽が落ちたら、湖を渡ってユーゴスラヴィアまで・・・ボートは、シロカの岸辺に隠してあります。」
そして私は更に詳しく、自分たちの秘密の計画の全てを、仲間たちの名前から身体的特徴に至るまで、一つの例外もなく、微に入り細を穿ち説明していった。今度は警部も全く言葉を返さなくなり、すっかり静かになってしまったようだった。そして私は語り終えた。沈黙と、ずっと我々にまとわりつく蠅の羽音。警部はもう一度、私をじっと見た。そして指導者の肖像画に厳かな視線を向けることも忘れていなかったが、テーブルに私の身元証明書をぽんと置くと、念を押すように私に向かって訊ねた。
「マルティン同志、他に言い残したことはないかね?」
「ありません」私は答えた。「これで全部です。あとは人民の敵を捕らえる措置を講じてくださいますよう、そちらにお任せします」
「いやしかしだね、マルティン同志、君は来るのが遅かった、全く遅かったねえ」
 私は驚き、呆気に取られた、何のことだか全く分らなかった。
「遅かったですって?何が遅かったんです?出発は今夜ですよ、だから私は、ことが明るみに出ないうちにとやってきたんですよ、皆さんにも今夜のことを知って欲しかったから。まだ時間はあります、ですから・・・」
「はいはいわかった、わかったともマルティン同志、だが世の中、時には奇跡も起こるものでね。その七人なら、ゆうべのうちにやって来ているんだよ、めいめい、自分たちの自由な意志でね」
私は口をつぐんだ。テーブルに頭をぶつけてしまいそうだった。そんなことになろうとは、予想だにしていなかったのだ。私は無言のまま立ち上がり、ドアの方へ向かった。実際、自分がとてつもなく空っぽのような気がした。今度もまた、私はしんがりだった。

(つづく)


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